<電子音>
あたしの鞄の中には何時も何時も瓶があるの。
あたしを生かすも殺すも瓶の中のこの薬が握ってる。
「具合はどうだ?」
何時も聞いて来る。
変わらない会話。
「大丈夫だよ、快調」
あたしはこの薬がないと生きられない。
そんな脆いあたしの身体。
何時も誰かに気遣いを受ける。
そうしないとあたしは生きられない。
…とは言ってもあたしはもう長くない。
皆…医者も家族も教えてくれないけど、きっともう長くない。
「悟浄は気にし過ぎ」
今日は快調。
ちょっと前に倒れて病院に運ばれてから、悟浄は著しくあたしを気に掛ける。
「なら良いけどよ」
悟浄は心配し過ぎる。
少しそれが嬉しい。
悟浄の優しさが伝わるから。
「ちゃんと言えよ」
勿論悟浄も知ってる。
あたしが長くない事。
もう1年近く入院してる。
あたしも覚悟は出来てる。
唯一つの心残りなのは悟浄。
あたしと付き合ってるけど、悟浄は笑ってくれる。
何も出来ないあたしの為にあたしを気に掛けてけれるの。
涙が出て来て、悲しくなる。
「悟浄…あたし死にたくない」
覚悟してたのにしてたのに悟浄がいて決心が揺れる。
「死なねぇよ」
眉間に皺寄せて悲しそうな顔されたら、信じられない。
あたしはきっともう直ぐ死ぬんだ。
「悟浄、死にたくないけどあたしは死ぬから」
抱き締めくれる腕が心地良くて暖かかった。
「は死なない」
そう言って抱き締めてくれる悟浄が好き。
良い香りがするの。
ずっとずっと一緒にいたい。
居られないって解ってるけど、出来れば一緒に年を取りたかった。
「先生、脈が…」
ピッ ピッ ピッ ピッ…………
規則正しい電子音が聞こえる。
あたしの頭はボーっとしている。
何も考えられない。
唯遠くに聞こえる色々な声。
「頑張って」
ピッ ピッ ピッ ピッ …………
何も聞こえない。
真っ白な天井が見える。
あたしの口に勝手に入って来る空気で人工呼吸器の存在を知る。
バァン
「!」
真っ白で何もない世界に赤い影がちらつく。
「ご…じょ…」
もう声なんか出ない。
「」
あたしの手を握る悟浄に握り返す事も出来ない。
「あ り が と」
ピー…
虚しく響き渡る電子音。
医者は悟浄を退かし手を尽くす。
けれどもう遅く、もう2度と目は覚まさない。
電子音だけが虚しく部屋に響き渡る。
死にネタです。
ずっと書きたいと騒いでいた。
これ100の御代のタイトルにあると思い込んでたんですけど、それは『電子回路』でした(間抜け
なのでSSになってしまいましたが。
1人称は難しい。
200508/25